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「」→リュークス
『』→レフ



『あぁほら、ここだよ、言ってた水着屋って』
(レフさんに促されて、そちらを覗くと、なるほど、話に聞いていた通りの水着専門店がそこにあった。)
「……わぁ」
(思わず声を漏らす。ファッション業界、中には単独種族用の服のみで店一つ出来るほど細分化されているとはいえ、水着だけしか置いていないというのは初めてだった。そういうお店に来たということは、目的はただ一つ、夏に向けての水着選びだ。)


(そもそもの始まりは、3日前の学校終わりに、レフさんと雑談をしていた時のことだ。“あの”倉庫での出来事があって以降、僕とレフさんは度々こうして会って話をしている、どころか既にレフさんの家にも行ったことがあって、さらには夕食もそこで食べ、挙句の果てには……、相手の下着まで把握している関係になっている。まるで付き合ってるみたいじゃないかと言われれば否定はできない。実際、僕とレフさんは前世では付き合っていた、らしいけど、その記憶は“僕”にはない。もう一人の“ボク”が持っているから。一方レフさん自身はしっかり覚えているみたいで、倉庫の事件があった後から積極的に僕に話しかけてくるようになった。本当は訴訟も辞さないセクハラを仕掛けた人ではあるのに、こうして度々会って話をする度に見せる心底和やかな顔に、僕は根負けしていた。ただ、その言動が、裏の“ボク”が、前世の恋人だと知ったことに起因するのかと思うと、複雑な気持ちになる。)


(校舎裏、夕陽の陰になる人目につかないような場所から呼び止められて、僕は他に下校する何人かの視線を気にしながら、そちらへ向かった。)
「レフさん……えっと、何かあったんですか?」
(鞄を振りながら駆け寄って、おずおずと尋ねる。というのは、今までたまたま見かけたりすれ違ったりして会話していた一方で、こんな風に向こうから呼ばれることは初だった。だから少し不安げになってしまったけど、当の内容はそんな深刻なものとは程遠くて、)
『――――リュークス君、今度、二人でどこかお出かけしない?』
「……え?お出かけ……?」
(思わず聞き返してしまった。)


『夏休み入ってからでもいいからさ、どこかリュークス君と行きたいなって思って……だめ、かなぁ?』
「……“裏”の方じゃないんですか?」
『え?』
「あ……」
(向こうからのそんな提案を一蹴するように、僕の口からそう零れてしまった。それにはっと気づいた頃には、レフさんはキョトンとした様子で僕を見ていた。最近では、今の僕が“表”、もう一人の僕が“裏”、という呼び方がすっかり定着していたし、恐らくレフさんも、僕の問いかけの意味は気付いているはずだ。)
「だって、レフさんの恋人は“裏”の方ですし……僕より先に、そっちに伝えた方が」
(言いながら、僕は半ば反省していた。そんなつもりは無いのに、これじゃあまるで、裏の“ボク”に嫉妬してるみたいじゃないか――。)


『リュークス君』
(途中で遮るように名前を呼ばれて、少しびくっとしてしまう。)
『えっと、確かに裏のリュークスは僕の恋人なんだけど……僕はリュークス“君”とも一緒に行きたいかな……って』
「え…………」
(面と向かってそんな意外なことを言われて、僕は返答に迷うような顔で答えてしまった。)
『あ、ごめんね、急にこんな事言っちゃって……返事は今すぐにじゃなくていいから、ね?もし嫌だったら全然それでも構わな――』
「嫌じゃないです!」
(申し訳なさそうな顔をして立ち去ろうとする相手の服の脇腹を咄嗟に掴んで引き留める。それに面食らったように硬直するレフさんを見て、ハッと我に返ってレフさんのシャツから手を離し)


「あ、すす、すみません……!――――えっと、どこにお出かけするんですか……?」
(僕からのその問いかけに、明らかに輝かしい表情でレフさんが僕の方に向き直って、)
『リュークス君はどこがいい?』
(と逆に聞き返される。どこがいいかと聞かれると、それはそれでまた返答に悩んでしまう。とりあえず夏休みに行きそうな場所を頭の中で思い浮かべていく中、家族旅行でも海水浴に行ったことがないのを思い出して、)
「……海、とか」
(と呟く。)
『海かぁ、リュークス君は泳ぎたい?』
「泳ぎ……たいです」
『それなら水着も用意しないとだ』
「水着……」
(トントン拍子に進んでいきそうな旅行計画。しかしその単語が出てきた途端あることを思い出す。)


『?……どうしたの?』
「えっと、僕、水着は学校のしか持ってなくて……それで大丈夫なのかなって」
(そう。僕は今の今まで海水浴に行ったことがなかったから、学校の体育で使う用以外の水着を持っていなかった。昔は市民プールにはよく行っていけれど、その時の水着は……さすがにもう入らない。)
『んーーっと』
(それを聞いたレフさんは少し唸ってから、)
『大丈夫だとは思うけど……あ、ならさ、今度、水着を見に行かない?』
(と、提案してきた。そしてすぐさま携帯を取り出しては何かを調べ始める。)
「水着を……?」
『うん、ほら、ここ。水着の専門店があるんだよ』
(と、まるでブックマークに登録していたかのような早さで自分に見せてきたのは、確かに水着専門店の検索情報だった。)


(――というわけで、善は急げとその週の末に、レフさんと一緒に水着を買いに行くことになったわけだ。今までシンプルなスクール水着しか知らなかった自分にとっては、大体のものが派手に見えてしまう。)
「わぁ……ほんとに色々あるんだ……」
(店内を見回しながら、本来の目的を忘れかけるほど多種多様な品揃えに目を奪われる。その物量に押されがちだが、用途や対象、種類、サイズ事にきちんと陳列されてるあたり、店主の性格が伺える。)
『圧巻でしょ、こんなに色々置いてるのはここくらいなんじゃないかな?』
(空中に張り巡らされた紐、そこからぶら下がる、展示してあるだけなのかこれもまた売り物なのかわからない水着を、慣れた様子で払いながら、)


『あ、リュークス君はどんなのが欲しいの?』
(とレフさんが上から聞いてくる。そう言われると、水着を買うつもりのはずなのにどんな水着を買うかを全く考えていなかった……。だから思わず、)
「どんなのが良いのか……」
(と、ぼやいてしまう。)
『ん……リュークス君が気に入ったものなら、なんでもいいんじゃないかな。――まぁ、ここ試着もできるからさ、色々試してみるのもアリなんじゃない?』
「試着?」
『そうそう、そこに試着室があるから、幾つか気になるのを持ってって、試しに着てみて決める……って感じでいいと思うよ』
(色々試す……とはいえ、ここにあるものを片っ端から試したら日が暮れそうだ。レフさんに選ばせるのも悪いし……。そう思ってレフさんの方を見て、)
「あの……試しに着たら、変じゃないかだけ、見てくれませんか?」
(と尋ねる。)
『えっ、あぁ、うん、もちろん……!』
(レフさんは少し戸惑いながらもそう答えてくれた。)


「レフさん、着れました」
(その後、膨大な数の商品の中から幾つかを見繕って試着室に持ち込んだ僕は、その中の一つをとりあえず着てみたところで、外で待機しているレフさんにカーテンの脇から顔だけ出して声を掛ける。)
『おお、どれどれ……』
(試着室の前で僕の着替えを待ってくれていたレフさんがこっちに近づくのを見ると、カーテンを開け放ち自分の水着姿を見せる。といっても、着替えたのは下だけなんだけど。)
『良いんじゃないかな、もうそのまま行けちゃいそうな見た目だよ!上も含めて』


(今、僕は上には白い半袖パーカーを着ているのだけど、多分それとも相性がいいんだろう。水色から青色のグラデーション、それにサイドの白と黄色のラインが特徴的なスパッツ型の水着。一応自分では自信があまりなかったから、そう言ってもらえると、少し嬉しい。ふと、レフさんの方を見ると、試着室の床を見ては唖然とした表情をしていて)
「……?どうしたんですか?」
『えっとね、リュークス君……』
(僕が尋ねると、レフさんはひそひそ声で)
『今、水着、直で穿いてる……?』
「え……」
(試着室の床の隅には、僕がいつも穿いてるトランクスが置かれていた。)


「うぅ……」
『ほら、初めてだからしょうがないよ』
(しょぼくれる僕を、レフさんが慰める。知らなかった……というかよくよく考えれば、衛生的にも下着の上から試着するべきだった。)
『結局それにするの?』
「はい、これが一番、レフさんの反応が良かったので」
(と、手にしているのは最初の……“直で”試着してしまった水着。)
『意外だなぁ』
「え?」
『あ、いや、リュークス君いつも緩めの下着だから、普通のサーフパンツとかにしてくるのかと思ってたから』
(悪びれもなくそう言うレフさんに、)
「もう!そういう事は外で言わないでください!……多分、学校の水着しか来たことないから、こっちのタイプの方がしっくりくるんだと思います」
(と、返しながら、レジへと向かう)


「あ、でも、もう一人の“ボク”はサーフパンツ派みたいですね。交換日記に書いてありました」
『え、ほんと?』
(それを聞いたレフさんはこれまた意外、という表情をした後、売り場の方に戻って暫く悩むような素振りを見せてから、サーフパンツを手にして戻ってきて)
『おまたせ、さぁ、行こっか』
(と、何事も無かったかのようにレジに進む。そういえばレフさんも水着選んでたなぁ。今持ってるのは……3着……?一つはレフさん自身のだとしても、残りの二つは何なんだろう。そう思いながら財布を用意していると、)
『あ、いいよ、僕が出すから』
(と、先にレジに着いたレフさんが僕に声をかける。)


「えっ、そんな、僕の水着なのに、申し訳ないですよ!」
(と、本来ならば素直に受け入れるべきところを断ってしまう……のが僕の悪いかどうか分からない癖だ。)
『ううん、せっかくリュークス君とお出かけできるんだから、これくらいは……ね?』
(と、こちらも譲らない様子。膠着状態になった所で、それをレジから見ていた店主の狐獣人が、折半でいいんじゃないかと提案して解決した。何度か来たことある店だからか、レフさんはその狐獣人の店主さんと短い会話をした後、二つ袋を貰ってレジを離れた。)


『はい、これ、リュークス君の』
(と、大小二つの袋のうち小さい方を渡される。)
「あ、ありがとうございます……」
(初めて、自分で選んで買った水着にどきどきしては、ますますお出かけが楽しみになってくる。)
「そういえば、あの店主さんとは知り合いなんですか?」
『え、知り合いってわけじゃないけど……あの人、“水着マイスター”なんだよ』
「水着マイスター……?」
『あの品揃えなだけあって、水着を知り尽くしてる、みたいな』
「は、はぁ……」
『最近入荷したやつだと“プールに入ったら溶ける水着”なんかがあるらしいよ』
「えっ、それ水着の意味あるんですか?」
『さぁ、物好きな人が居るもんだねぇ』


(なんて話をしながらの帰り道、)
『えっとさ、リュークス君』
「はい」
(ふと名前を呼ばれては、返事をしてレフさんの顔を見上げる。)
『その……こうやってプライベートな時間のときはさ、もっと気軽に話しても大丈夫だよ?』
「あ……ご、ごめんなさいっ」
(……多分、僕がずっと敬語だから、学校にいる時みたいな距離感を持たせてしまったのだろう。反射的に謝ると、)
『えっ、い、いや、謝らないでいいよ!無理しない程度でいいからさ……』
「そ、それなら……」
(無理しない程度とはいえ、気軽に話すってどうすればいいんだろう。お父さんに喋るみたいな?いや、それよりも関係的には友達に話しかけるみたいな方がいいのか……)


「……レフ」
(束の間の静寂を割き、悩んだ末僕はレフさんを呼び捨てで呼んでしまった。僕は目を伏せながら少し焦る。こんなに歳上の人を呼び捨てで呼ぶなんて、身近な人だと初めてかもしれない。……レフさんからの反応がない。やっぱり急な呼び捨ては失礼だったのか。恐る恐るレフさんの方を見てみると……)
『〜〜〜〜っ』
(悶絶していた。)
「れ、レフさん!?大丈夫ですか!?」
『ごめん、ちょっとびっくりして……一瞬君が“裏”の方に見えたから』
(“裏”の僕……そういえば、交換日記の時、“裏”の僕はレフさんを呼び捨てにしていたっけ。……うん、呼び捨てはやめておこう……。僕は何となく胸に誓った。)


『はぁ……それじゃあ』
(落ち着きを取り戻したレフさんはこちらに手を差し伸べて)
『帰ろっか』(と頬笑みを浮かべる。)
「……うん」
(その手を僕の手は握りに行く。昔、親の手を握りながら帰路についたあの時とは、また違った感覚。また違った温かさ。その不思議な気持ちに包まれながら、僕の水着選びは終わったのだった。)

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